2012.1.4


所沢の民話

滝の城の竜


所沢市内の柳瀬地区に、滝の城跡と言う史跡があります。滝の城は、昔は八王子城の出城で城と言うよりは砦でした。
この竜の伝説は、その滝の城にまつわるお話です。

滝の城には不思議なことばかりが起こりました。
ある真夜中、地震でもないのに地鳴りがして、台地がぐらぐらと揺れ動きました。

またある時には、城中の井戸がひあがり、燃えるものが無いはずの井戸の中から、火が噴き出しました。

又、ある朝など、見張りの兵が,ひとり残らず死んでいるにが発見されました。調べてみると病気ではなく、体にもかすりきず一つありません。
不思議なしにかたです。

あまり不思議なことばかりが起こるので、城の殿さまが,重臣達を集めって、どうしたらよいかを相談しました。

だが、どうしようもありません。「何かの、たたりではないだろうか? 
いっそ、山伏でも呼んで,うらなってもらったらどうだろう?」と殿さまが言いました。

早速山伏を呼びました。城中の広場に祭壇をもうけて、その前で日を焚いて、山伏はおごそかに祈祷を始めました。
山伏の後ろには、殿さまをはじめ重臣たちがいならび、その後ろには城兵たちが座って、じっと見守りました。

赤々と燃える火のうつろいで、山伏の顔は、恐ろしい形相に見えました。そして息つまるような時間が過ぎました。

祈梼が終わると、山伏は、殿さまのほうへ振り向いて、恐ろしいことを言いました。

「これは竜のたたりです。昔から、この丘の土の中に、竜が住んでいました。ところが、城を作るために騒がしくなり,天に昇ってしまったのです。
その竜が、静かなくらしのじゃまをした人間どもをうらんで、悪いいたずらをするのです。
だから、貴方がたはすぐにこの城を引き払うか、できなければ、今のうちに竜を退治しなさい。
そうしないと、そのうちに、これまでより、もっと恐ろしいことがおこりますぞ」

山伏が帰ったあと、又、殿さまは重臣たちと相談をはじめました。

「驚いたな、竜がいたずらをしていたとは・・・とんだところに城を築いてしまったものだな。」と殿さまが言いました。
すると重臣の一人が「もっと恐ろしいことが起こっては大変です。」いまのうちに城を他のところに移しては如何ですか」
「いやそれはならん。ここより他に八王子城を守るのに、地の理の良いところはないだろうかな。」

「とすると、竜を退治するよりほかに、方法がございませんな。」「
さよう・・・しかし肝心の竜が姿を見せん。戦に強い武蔵武士でも、姿が見えない敵では、どうすることもできわしない。」
殿さまは腕をこまぬいて、考え込んでしまいました。

いくら相談しても、なかなか話はまとまりません。どうしても見えない竜に立ち向かうかというところで、
相談は先に進まなくなつてしまいます。
皆黙りこんで、お互いの顔を見つめ合うばかりでした。

するとしばらくして、ひとりの重臣が、ひざを進めて言いました。
「良い考えがうかびました。城中の美しい女をえりすぐって、にぎやかに、踊りをさせては如何でしょうか。
昔天照大神が天の岩戸におかくれになった時に、岩戸のまえで、御神楽をもようしました。
そしたら,御隠れになっていた大神が、それをご覧になりたくて、岩戸をお開きになったという例もあります。
ですから、竜もきっと踊りに誘われて、姿を現すかのしれません。その時に弓矢の名手に矢を射させて,退治してしまったらどうでしょうか。」

「なるほど、それもひとつの方法じゃな。」殿さまがひざを叩くと、重臣たちも、皆この方法に賛成しました。
とにかくやってみようと云うことで、やっと相談はけりがつきました。

さっそく、城の下ににわか作りのやぐら舞台が設けられました。
その夜、舞台の四すみに、赤々とかがり火を燃やし、
笛や太鼓やつっつみで、にぎやかに囃子たてました。

それに合わせて、声自慢の武士が今様(当時の流行歌)を唄いますと、
きらびやかに着飾った数人の美女が舞台の上で踊りました。

舞台の下の垂れ幕の陰にには城内一の噂の高い弓の名人が弓と矢をとって隠れていました。
でも、敵の竜にそれをさとられてはなりません。やぐらを囲んで殿さまをはじめ、城中の武士が集まりました。
踊りに浮かれて、見物しているように見せかけるためでした。

賑やかな踊りは夜更けまで続きました。はやしや、歌の声が城の森にこだましました。
月までが、中天にとどまったまま、踊りに見とれているかのようです。

表向きはあくまで平和な踊りにみえました。
でもいつ竜が恐ろしい姿を現すかと思うと、見物人はもとより、歌い手も、踊り手も、手にあせ握る思いでした。
舞台の下に隠れた弓の名手も、垂れ幕の隙間から、そっと外のようすをうかがい、弓と矢を握りしめました。

だが、いっこうに竜は姿を見せません。あきらめた殿さまは、あとひと踊りでやめさせようと思いました。
その時です。
西の空に傾いた月が、急に黒雲に隠れました。黒雲は、見る見るうちに空じゅうに広がりました。

と同時に、ゴーッとすざまじい風です。かがり火がいちどに吹き消されて、真っ暗闇になりました。
皆ギョッとして空を見上げました。
が、暗くて何も見えません。
その時、すざましい稲妻が、一瞬空に走りました。そして、ひとびとは見たのです。
渦巻き流れる濁流のような黒雲と、その中に、のたうち現れた恐ろしい姿を・・

「竜だ!」「竜があらわれたぞ!」皆口々に叫びました。が、その声も、轟きわたる雷鳴に、たちまちかき消されてしまいました。
踊り手たいは身震いをして、
舞台から飛び降り、垂れ幕の中に隠れました。すれちがいに飛び出したのは弓の名手です。
弓に矢をつがえ、空に向かって身構えました。

又一瞬、稲妻が光りました。たれさがった黒雲の中に、竜のうろこがきらりと光りました。
「ぬかるなよ!」殿さまの励ましの声がとびました。弓の名手は、次の機会を待ちました。

三度目の稲妻と同時に、すぐ目の前にせまった竜の姿が、はっきり見えました。 
ビューン! 矢がはなたれました。確かな手ごたえ! ギャー!! 恐ろしい竜の悲鳴です。

次の瞬間、黒雲はたちまち晴れ、月が顔を出しました。月明かりで、地上によこたわる、竜の胴体が見えました。
その首は北に向かって飛び、恐ろしい形相のまま、ころがってていました。ついに竜は退治されたのです。

それから後の滝の城には、何の不思議な出来事も起こらなくなりました。

その時、竜の首が飛んだ所が「井頭」矢の落ちた場所が「矢崎」踊りをした所が「舞台」という地名になって,
今もそのまま残っています。


s参考資料:内野弘 「ところざわの民話」