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第二話

バン!

思いっきり机を叩く。夕食中のダイニングルーム。

父さんと母さんは俺より一足早く、夕食を食べていた。茶毛丸もだった。

「なんでこんな名前付けたんだよっ!」

かあああっ。頭に血が昇る。

「ただでさえ、黒薄(くろうす)なんて名字なのにさっ!

 黒薄三太(くろうすさんた)だなんてさっ、名字と名前逆にしたら、サンタクロースじゃねぇかよ!ふざけんじゃねぇよ!

 てめぇらは、息子をトナカイの引っ張るソリに乗せてぇのかよ!?世界中の子供にプレゼント配らせてぇのか!?

 ふざけんなっ!!」

・・・そうだ。名前が三太である上に、俺ん家の名字は黒薄(くろうす)。

・・・俺の本名は黒薄三太(くろうすさんた)。名字と名前を逆にすれば三太黒薄(さんたくろうす)。

・・・絶対に外国には行けない名前だ。・・・外国って・・・名字より名前が先なんだよな・・・?

そんなの・・・俺には地獄だ。

「・・・三太。」

母さんが口を開く。

「・・・何度も言ってるでしょ。・・・私の名前が一子(かずこ)でね、ダーリンが次郎(じろう)って名前でしょ?

 ・・・だからね、息子にはね、『 三 』のつく名前を付けたかったのよ。」

穏やかな口調。まるで俺をなだめようとでもしているような。

「・・・だから、ね?三(さん)ちゃん、分かる?」

「じゃあなんで三太にしたんだよ!」

・・・俺は昔から何度同じことを訊くんだろう?

「・・・三ちゃんの名前にはね、いくつか候補があったの。それでね、どうやって決めようか迷っていた時にね、

 ダーリンがね、こう言ったの。『よし、じゃあ本人に決めさせよう。』・・・って。それでね、ダーリンったら、

 まだ言葉も理解できるはずのない赤ちゃんだったあなたの前でね、候補の名前を読み上げ始めたの。『この子に

 理解できるわけないでしょ。』って私は言ったんだけどね、ダーリンったら、『いや、こいつは俺達の息子なんだぞ?

 自分の名前ぐらい、自分で選べるさ。』って言い張って・・・。」

・・・そのことなら、昔から何度も聞いている。

・・・昔から、ずっと変わることのない答え。

「・・・それでね、ダーリンが『・・・三太。』って言った時にね、あなたがね、にこっ、って笑ったのよ。

 ほかの名前の時には指をくわえてるだけだったのに。『三太』って名前の時だけ、あなたは天使みたいに微笑んだのよ。」

母さんの隣で、父さんがうんうん、とうなずいた。

「そんなの・・・たまたま機嫌がよかっただけだろ・・・。」

これ以上、言い返せなくなる。母さんの言葉が頭の中に甦る。

――『三太』って名前の時だけ、あなたは天使みたいに微笑んだのよ――。

・・・まるで俺がこの名前を望んだみたいじゃねぇかよ・・・悔しいけれど・・・これは・・・

いくら赤ん坊だったといえど・・・俺に責任がある。

そうだ。諸悪の根源は俺なんだ・・・。

「・・・畜生っ・・・。」

唇を噛み締める。

「・・まぁ・・・三太、そう落ち込むな。父さんだってこの名字には少しばかり苦労してるんだぞー?

 いやぁ、この前なんかさ、『黒薄君、君最近髪、黒、薄くなったんじゃないか?』なんて言われちゃってさぁ・・・ハハハ。」

最近白髪の増え始めた父さんが言った。

「それ・・・慰めになってない・・・。」

「・・・そ、そうか?」

「はぁ・・・もう名前の事はいいや・・・。」

俺は椅子に座り、夕食を食い始めた。

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