Gリ−グ

第三節

初音島DCユナイテッド VS 種子島FC

SCENE 1 ズレ



(ふうっ……疲れた)
 練習の後、アシスタントコーチの朝倉純一はグラウンドからクラブハウスに戻って来た。
 前節の那覇との試合の後、初音島に戻って来ていた初音島の選手達。
 監督の杉並は、その翌日の朝から、選手達に激しく長い練習を行った。
 コーチである純一自身も練習に付き合っていたことから疲労も大きかった。



 普段試合の翌日はそんなに激しい練習をすることはない。
 むしろ休みにするか軽目の練習に留めることが一般的。
 だが、杉並はそうではなかった。



 選手達のコンディションが悪いことを承知のうえであえて練習を行った。
 その理由は前節の那覇との試合にあった。



 先制ゴールを奪い、後半ロスタイムまでリード。
 試合終了寸前に同点に追いつかれ引き分けとなった。
 追加点が取れていれば……
 終了寸前にしっかり集中していれば……
 十分勝てた試合だった。
 それだけに猛練習を行うことで悪いイメージを払拭し、次の試合へ臨む。

 それが杉並の狙いだった。



 だが狙い通りにいったとはとても見えなかった。
 選手達の集中力は既に切れ、選手によっては練習場に倒れ込む選手もいた。
 純一も疲労が重く、時々何をしているか分からなくなるほどだった。



 そんな朦朧とした意識の中で、部屋に戻ろうとした。



 そんな中……
「この分からず屋!」
 バンッ!
 監督室からドアを激しく閉める音が宿舎中に響き渡る。



(何だ何だ……)
 朦朧とした意識はすぐに覚め、思わず純一は監督室に目を向けた。
 監督室から出ていった選手は純一の前を横切る。



 その選手はDFの水越眞子。
 顔を真っ赤にし、体を震わせながら歩いていた。



 バタン!
 そして、そのまま自室に向かい、激しくドアを閉めた。
 怒っているのは明らかだった。



(何があったんだ……)
 トントンッ!
 純一は恐る恐る監督室に向かい、ノックをする。



「どうぞ……」
 ガチャ……
「失礼します」
 中からの応答を受けると共に純一は監督室に入っていった。
 監督室には大きなテーブル一つに向き合うようにソファがある。
 そのうちの一つのソファに、憔悴しに座り込んだ杉並の姿があった。



「どうしたんだ……あれは?」
 純一はそんな杉並に声をかける。
「これを見な……」
 杉並はそう言うと、テーブルの上にあったスポーツ新聞を純一に渡す。



「何だこりゃ……」
 純一はスポーツ新聞を手に取ると思わず声をあげた。



 その新聞は、初音島スポーツ。
 初音島のスポーツ関係の話題を取り上げる地域密着のスポーツ新聞だった。
 全国規模で活躍するスポーツチームの話題をよく取り上げることから……
 Gリーグでの初音島の活躍をも大々的に取り上げていた。
そんな初音島スポーツの見出しの中に……
 
「初音島、内紛勃発!」
 那覇との試合の後に眞子が受けたインタビューの内容が記事になっていた。



 その内容は……
「もっと攻めたかったけど監督の指示で出来なかった」
 眞子のコメントが記事として載っていた。



 明らかな監督批判だった。



「それが本心かどうかさっきまで聞いてたんだよ」
 新聞を見ている純一に杉並は声をかける。
「それで本心だったか?」



 純一が尋ねると……
「残念ながら本心だった。あんたのせいで勝てなかったまで言われたよ」
 杉並は渋い表情で答えた。



 Gリーグで戦う相手は皆格上。
 相手陣内や中盤でボールを奪えれば、それだけチャンスは多くなる。
 残念ながら今の初音島のチームの能力から見て、難しい。
 それだけにボールを奪えるのは自然と自陣と言うことになる。
 それだけに自陣で奪ってカウンターという戦術を選択せざるを得ないのが現状だった。



 現に、初音島の殆どの選手達は、Gリーグでプレーしてきた選手達に圧倒されていた。
 何とかついていくのが精一杯。
 相手のチャンスを何とか凌ぐこと以外何も出来なかった。



 だが、眞子は違った。
 眞子は初音島の外でプレイしてきた選手。
 それだけに、眞子にとっては相手選手との差は殆ど感じていなかった。
 すぐに守りに入るチームメイトに対し、過剰反応していると思えなかったに違いない。
 そんな眞子の行動を、チームはそれを生かせていなかった。



 眞子の行動はむしろ誤解を受けてしまっていた。
 眞子の行動はチーム内外から批判の対象として捉えられていた。
 それだけに、その不満は眞子の腹に随分溜め込まれていた。



 そのため……
 本来試合後のインタビューではキャプテンは、チーム全体の話をしなければならない。
 なのに関わらず…・・・
 溜まりに溜まった個人的な感情をぶつけてしまい……
 それが記事として出てしまっていた。



「何てことだ! 眞子はキャプテンだろ!」
 純一は、声を荒げる。
 純一もチームの現状を理解していた。
 初音島はそんなに高いレベルにある訳ではない。
 それだけに、初音島にとって何よりも重要なのはチームワーク。



 チームワークが乱れることは、チームにとって命取りになりかねない。
 「とにかく守りきる」というチーム一丸のチームワークがあったから……
 開幕戦に昨年度のチャンピオンから大金星をあげることができた。

 もし、チームが少しでも乱れることがあったなら、サンドバックになったに違いない。
 それは、キャプテンの立場にいる眞子なら認識しなければならないことだった。
 それだけに、純一は眞子に怒りを感じていた。
 チームの中心選手がチームを崩壊に導いているのだから。


 だが……
「まあそう言うな。眞子をキャプテンに任命したのは私だ。責任は私にある。
 それに、眞子にキャプテンとしての能力があるから任命していた訳じゃないんだ」
 杉並はそんな純一に声をかけ、落ち着かせる。



「どういうことだ……」
 純一は首を傾げ、杉並に尋ねる。



「地位が人を作るというやつだ。
 眞子にキャプテンとしての責任感を植え付けたいと思っている。
 眞子は将来は初音島・・・…いや……日本女子サッカーを引っ張る選手にしたい。
 そのための試練を与えているのだ。
 それにな……」

「それに……?」
「眞子は能力が高い選手だ。
『キャプテン』という立場を与えてやらないと能力を眞子自身がチームの為に使わない。
 そうなると糸の切れた凧の様にフラフラとどこかに行ってしまうだろう……
 そうならない為の処置なんだ。」
 杉並は、純一の質問に淡々と答えていく。



 杉並が純一の質問に答えることはよくあることだった。
 純一は杉並に対し、疑問があればすぐに質問をぶつけていた。
 質問を互いにぶつけ合うことで、互いの意識のズレを修正する。
 それが一貫とした初音島としてのチームとしての意識を作りあげてきた。



 だが……
「じゃあ……眞子がキャプテンに向いているかどうかは関係ないのか……」
 純一は杉並に声を返す。
 Gリーグ優勝経験のある監督。
 納得いかないものでも「経験だから」ということで杉並の答えに納得するのだが……
 今回は納得できなかった。



 キャプテンになるべく人間がキャプテンになるべし。
 それが純一の自論だった。
 現に守備陣は眞子ではなくDFの胡ノ宮 環を中心に纏まり……
 攻撃陣は、MFの朝倉 音夢を中心に纏まっている。
 それだけに、どちらかをキャプテンにするべき。
 そう純一は考えていた。



「多分君も納得しないだろうが、チームにとって必要な措置なんだ。
 申し訳ないがこれは納得してくれ……これは私が責任を持って行いたい」
 杉並は、そう言って、純一の言葉を遮った。



 そして……
「失礼します……」
 純一は、監督室を後にした。


(これでいいのだろうか……)
 純一も眞子同様に納得しないまま自分の部屋に戻っていった。



 キャプテン、監督、コーチ。
 チームの重要な役割を果たす三者に生じた大きなズレ。
 そのズレが修正されることなく初音島は次の戦いの舞台へ向かうこととなった。



〜続く〜



スターティングラインナップ

<初音島DCユナイテッド>
(GK)白河 ことり( 1)
(DF)月城 アリス(19)
(DF)胡ノ宮  環( 6)
(DF)水越  眞子( 4)(1)
(DF)霧羽  香澄( 7)
(DF)工藤   叶(12)
(MF)萩原  朋子( 9)
(MF)朝倉  音夢(10)(1)
(MF)山本  光子( 8)
(FW)芳乃 さくら(11)
(FW)水越   萌(14)


<種子島FC>
(GK)  篠原  志穂   ( 1)
(DF)  天堂   蘭   (14)
(DF)  安藤   明美  ( 4)
(DF)ロマコフ・バチスカーフ( 6)
(DF)  音無  麗    (16)
(MF)  島田  春名   (12)
(MF)  工藤  杏子   ( 7)
(MF)  朝倉  鈴    ( 8)
(MF)  七瀬  成恵   (10)
(FW)  七瀬 香奈花   (11)(2)
(FW)  丸尾 千絵子   ( 9)(1)





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