「さっき光を抱きしめたからじゃない?」
「え?あ、あれは…」
アスコットが見た海の顔は、切なそうだった。
さっきはノリだったらしいが、ランティスが嫉妬したのを見て、自分も嫉妬したようだ。
「…抱きしめてよ」
「え?」
「そ、それとも何?光のことを好きになっちゃったって訳!?」
「ちちち違うよ!!…昔カルディナがああしてくれたから…」
「…」
もはやカルディナの責任ではないと思うのだが…。
海は呆れて何も言えなかった。
海がアスコットに背中からもたれた。
アスコットは顔を赤くし、海を抱きしめた。
海はその腕に手を沿え、満足そうだった。
普通ならアスコットが海を送るのだが、今回はその逆。
海の肩を借りて歩くアスコットは、自分が情けないと思った。
海は彼の部屋で寝る前のキスをした後、部屋に戻った。
光はランティスに連れられ、魔法騎士の部屋に行った。
「…怒ってる…?」
光はランティスに不安そうな顔で訊いた。
明らかにさっきのことが原因で今自分はここにいる。
「…いや」
否定的な肯定。
彼でも嫉妬はする。そんな決定的なことだった。
「で、でもあれは…ん…」
何か言おうとした口を塞がれた。
光はゆっくりと目を瞑り、彼を受け入れていく。
その長いキスを海は見逃さなかった。
(ケータイケータイ…)
そして…
パシャっという音で光が気付いた。
海に携帯で自分たちの様子を写された事を。
「あー!!海ちゃん!!」
「保存保存♪」
こうして、ちゃっかりとそのメモリに記録された。
「イエィ!!」
「ひひひひ卑怯だよ!!」
光が真っ赤になって怒ってる。
海はアハハと笑って、部屋に入った。
「もぉ〜…!!」
「…何だ今のは?」
「最近の携帯電話はカメラが付いてるんだ」
「ケータイデンワ?」
「私達の通信手段なんだ。…でも電池がなくなってると思ったんだけど、どうしたのかなぁ…」
実は意外な盲点が存在していた。
それは後述するとして。
「じゃぁ、おやすみ。ランティス」
「あぁ」
額にキスを受けた光は顔を赤くして部屋に入った。
風がモコナを抱きしめて寝てるので、会話は小声になった。
「海ちゃん、充電どうしたんだ?」
「ん?大きなレーダーがあるでしょ?そこのコンセントを使ったのよ」
「えぇぇぇ!?」
「あ。大丈夫よ。二個あったんだもの」
「じゃ、じゃぁ行ってくる!!」
「え?でも今風のを充電してるわよ」
「おっと…!!」
その言葉にこけそうになった光だった。
「それにしてもやっぱり圏外なのね。ココ」
「そ、そりゃそうだよ…(^^;」
「まぁ携帯のことは諦めて、寝ましょ」
「あ、うん」
不思議と光は眠れた。
だが、良い夢ではなかった。
返しやがれ!!
響き渡る。夢の中にも。
ランサーがランティスに掴みかかった時の言葉。
激痛が走る腕など忘れ…、いや、それを超えるほどの痛みだったのだ。
夢にまで見るほどの衝撃だった。
切り替わったと思った。
そこにはランティスとイーグルがいた。
光は嬉しい夢だと思った。だが、逆だった。
「ザガートは…こうなることを分かっていた…」
イーグルの肩を借りたランティス。
それはあの時のこと。
ザガートとエメロード姫を三人で"殺した"ことを、ランティスが察した瞬間のことだった。
泣いてるんだろうと分かった時、叫んだ。
「うゎぁぁぁぁ!!」
光は凄い勢いで起き、布団を奪われた海と風も驚き、目を覚ました。
「ど、どうしたの!?光!!」
「何か…悪い夢を?」
「あ…い、いや、大丈夫。なんでもないなんでもない…」
と言う割には汗ビッショリだし、顔が強張っていた。
「お、おやすみ!!」
光がぱたんと倒れ、海と風も布団の勢いでぱたんと倒れた。
幸い、モコナが起きる事は無かった。
光の悪夢は続く。
フェリオが出てきたとき、良い予感ができなかった。
「姉上…!?」
それは自分を殺して欲しいと魔法騎士に頼んだ時のことだった。
「う…嘘…だよな…」
あまりのことに信じられなくて、顔が引きつってる。
そして…
魔神が合体し、突き刺した瞬間…
「姉上ぇー!!」
フェリオの涙が地に落ちるのに時間はかからなかった。
「ちくしょぅ…ちくしょぉ…ちくしょぉぉー!!」
両手両膝が地に付いたまま、上を見ることもなく泣き叫んだ。
「なんで…なんでこうなってしまったんだ…!!どうしてですか…!!姉上…」
乾いた大地に多くの涙が零れ落ちた。
「こんなことって…あるのかよ…はは…はははは…」
クレフが傍に来た時には、精神崩壊を起こしかけていた。
またがばっと起き上がった。
「ハァッハァッハァッハァッ…」
悪夢でまた汗ビッショリになり、呼吸も乱れた。
海と風は実はその間、寝れてなかった。
多分こうなるかもしれないと思ったから。
1回目の目覚めから30分経った時だった。
「やっぱり、何があったか話して」
「光さんを見てるとこちらまで…」
『!!』
風が何かを言いかけた時、光が泣いているのが分かった。
「光!?」
「光さん!!」
海が急いでベッドの灯りを点けた。
「落ち着いたら…話して」
「また私たちを心配させないようにとお考えのようでしょうけど、そっちの方が心配になりますわ」
この二人を見て、言えないと思った。
特に風を見た瞬間は。
だが、前にもノヴァとデボネアの夢を見たことを隠して、迷惑をかけた。
葛藤の渦の中、やはり何も言わない事にした。
二人がまた泣く姿など、見たくは無い。
「…ごめん…言いたくないんだ!!」
そう言って布団をかぶって倒れた。
だが、二人だって負けてられない。
「甘いわよ」
「絶対に何かあったということですから」
「くっ…!!だから言いたくないんだ!!」
『言いなさい!!』
「嫌だ!!」
光は泣いて抵抗した。
その涙を見て、海と風は結局、尋問を止めざるを得なかった。
その代わり…
光を優しく抱きしめた。
「え…?」
「何があったかは知らないけど、一人で何でも抱え込まないで」
「私たちはいつも3人一緒なんですから」
「海ちゃん…風ちゃん…」
涙はなくなり、今度は悪夢を見ることは無かった。