重苦しい空気が重苦しい空気に呑まれる。
先にプレセアが入った後、海も入った。

「久しぶりだな。ウミ」
クレフが真正面にいる。
ウミは絶句し、動けなかった。

「?どうした?」
キョトンとな。

「ぷぷ〜!!」
ペタっと。
モコナが海の顔に張り付いた。
シ〜ンと何も動かない"間"が怖い。
だが。

「…」
ベリと剥がした後

「会っていきなり何するのよー!!」
「ぷぅ!!」
耳をガシッとな。

「ぷぷ〜!!」
「あっ!!コラ!!」

一気に空気が普段どおりになった。
思わず溜め息が盛大に吐かれた。

「な、何?」
『…』
あんただよ。という目で海を見た一行だった。

クレフと海が気付いたのは、居辛そうな光と風、カルディナ。

「どうした?」
問題を抱えてる張本人の一言。

『…』
言えば荒れる。それだけは分かっていた。
ただでさえ男三人がどっかに行ってしまって大変なのに。

「ど、導師、アスコット達はどないして消えたんですのん?」
カルディナがはぐらかす。

今度はクレフの顔が沈みかけた。

「私のせいかも知れぬ」
『え?』


クレフは全てを白状した。
大きな杖で木を思い切り叩いた事。
フェリオとランティスの体が宙に浮いた瞬間、突如何処からか眩しい光りが襲ったこと。
気が付けば三人が消え、そして支えを失った城が自分たちに重く圧し掛かったこと。

「でもそれはクレフのせいじゃないと思う」
「そうと…言い切れるのか?」
クレフは罪悪感で支配されていた。

「海ちゃんが言ってたんだ。どこか別の世界で魔法騎士をやってるんじゃないかって」
『えぇぇ!?』
全員バッと海を見た。

「で、でもあれは夢の話よ。まぁ確かに凄くリアルだったけど…」
『リアルって何?』
「現実的って意味よ。でも確かにあの夢のことは引っかかるのよねぇ」
「上手く行けば…」
『ん?』
「あ、いや、ヒカルたちも今夜もしかしたら見るのかもしれないと思ってな」
『クレフ(さん)は見たの!?』
「ハッキリとは覚えていないが、何か嫌な予感がしたことだけは覚えている。もしかすると、あの三人が魔法騎士になるのかもしれないな…」
「嫌な予感というのはやはり…」
「悲劇の繰り返しかもしれん」
クレフの言葉が重くのしかかる。
今城に住んでいる人間は全員、セフィーロの伝説に関わった者。
忘れようにも忘れられない悲しい伝説を思い出すと、胸が締め付けられる。

「あんまりよ…」
プレセアがギュッと拳を握るが、顔を俯け声は辛く聞こえた。

「せやな…」
「導師」
ラファーガが尋ねる。

「王子とランティスは、人を殺めたことは?」
その言葉が光と風と海に圧し掛かる。特に前者二人に。
別の意味で圧し掛かったのは、プレセア。

「いや」
「そうですか」
「…アスコットか」
全員が知っている。彼もまた血に染まっている事を。
いや、今いる中で血に染まっていないのはほんの僅か。
ザガートの下で何人の命を奪ったかも分からない人間は自分の居場所が分からなくなる事があった。
光達もまた、セフィーロで息苦しくなる事もある。

「…あいつなら、可能性はあるな」
『え!?』
「もしその魔法騎士の伝説が"我々の"伝説と同じならば、アスコットが一人で成就しようとするかもしれん」
『どうして!?』
海とプレセアがダンッとテーブルを叩き同時に立ち上がった。

「あのコは優しいからや」
カルディナが述べる。

「アスコットにとって王子もランティスも、大事なモンや。三人の中で人を殺したんはアスコットだけやさかい、他の二人を血に染めとぅないと思うで」
カルディナの持論に過ぎない。
だが彼女が一番アスコットのことを知っている。プレセアも3年は一緒にいる。
だから疑う事ができなかったし、否定しようにも言葉が浮かばなかった。

「そうならない事を祈るしかないだろう」
勝手な結論。

「セフィーロは意志の世界。我々が意識してしまうと、現実にそうなるやも知れぬ」
クレフは自信なさげに言ってしまった。
だが意識するなと言うほど意識しない訳がない。
特に光と風は頭から離す事ができなくなってしまった。


重苦しい雰囲気の中、テーブルには食事が多く残された。
各人勝手にテーブルを立ち上がり、各々の部屋に戻った。
これ以上会話しても虚しい事しか話されないのが見えていたからだ。

部屋には新たにシャワーが設けられた。
大浴場も現存してるが、一人で居たい時に他人に迷惑をかけたくないという誰かの声で設置された。
着替えなど持ってきてない光達はどうしようかと悩むところだが。



〜セカイア〜
クレフ達の懸念がズバリ的中している男達はベッドに身を任せていた。
ただ、光達の時同様、大きなベッド一つに男三人が…

なんて訳にはいきたくないというフェリオとアスコットは各自で寝床を確保した。

「おやすみ、フェリオ」
「あぁ」

フェリオは木の枝の上、アスコットは魔獣の背中に身を任す。
というわけで、ランティスは人生で最大のベッドを手にした事になる。
モコナはプレーリーに抱かれて寝ている。
彼女の頭の傍にあるダブルガトリングガンやグレネード弾等が暴発しない事を誰よりも願っている存在であろう。

フェリオの陣取った木(一応鳥の巣とかもあるんだけど)は、プレーリーの家の傍。
死角が少なく、またアスコットの魔獣やなによりもランティスの存在がフェリオを安心させる。
寝るといっても完全に寝てしまえない緊張感が襲う。
夜の方が魔物が出現しやすい。沈黙の森ではアスコットは戦力になれない。
だから見張りを兼ねる。その代償とでも言うべきなのが、昼寝の多さだろう。
まぁでも単に気持ちいいから寝てるだけかも。



夢の中。

光達は海の述べたような事を理解せざるを得なかった。
光はランティスを中心に、海はアスコットを中心に、風はフェリオを中心とした夢を見た。

この日の"ダイジェスト"が手に取るように分かった。
突如の空中自由落下、フェリオがクリーシャに掴みかかる場面、メルビルの刺客、そしてプレーリーと黒モコナ。
彼らが見たものが事実であるとすると、自分達の懸念どおりの事になってしまった。

だがこの逆は無かった。
セカイアの魔法騎士はセフィーロに自分の想う人が来た事など知らない。
彼らは夢の中で苦汁を舐めさせられていた。

セフィーロでの伝説をダイジェストで見ていた。
東京タワーでの出会いから、東京タワーでの涙まで。

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