海はゲンナリした。
またもやアスコットと二人になったのだから。
まぁ夢だけど。

「ど、どうしたの?」
アスコットが思わず聞くほど、海の顔は不機嫌そうだった。

「別に」
「?」
「…結局、魔法騎士になったのね」
「…みたいだね」
アスコットは夢だと割り切っている。
目の前の人間は自分の欲望が見せているものだと思い込んでいた。
だから目の前の人の言葉は夢でも突きつける現実だと思う以外なかった。
海にとっては複雑だった。
プレセアに言われた言葉が離れなくなったからだ。

「ねぇ」
「何?」
「空から落ちたり、クレフに似た人にフェリオが掴みかかったり、誰かに襲われたのって、本当?」
「フェリオが誰かに掴みかかったかどうかは分からないけど、突然光りに包まれて落ちたのは本当だよ」
「それで、プレセアに似た人の家に?」
「うん。プレーリーって言ってた。黒いモコナと一緒だったよ。でもなんで知ってるの?」
「そういう夢をさっき見たの。妙にリアルだったわ」
「リアル?」
「現実的って意味の言葉よ。日本語が通じるんだから英語も通じてよ…」
夢の中で頭を抱える海であった。
夢の中のアスコットは知識が一つ増えたが、彼女の不満さに困惑している。

「…ついてないわね。お互い」
「え?」
「…なんでもない」
その目が切なく悲しかった。

「ウミ…?」
アスコットの幻影が近づいてくる。

「来ないで!!」
海の声にビクッとし、夢の中でアスコットは動けなかった。

「辛いから…来ないで…」
「ウミ…?」



「フウ…!?」
「フェリオ…!?」
まるで宙に浮いているかのようだった。
手を伸ばせば届きそうな、しかし絶対に届かない距離。

「今、どこにおられるんですの?」
「…異世界だ」
「お名前は?」
「セカイアって言う国だ」
フェリオの顔が横向きに俯く。
その理由は風の懸念どおり。

「魔法騎士に…なられたんですのね」
「…あぁ」
ギュッと拳を握り締める。
悔しさではない怒り。
忘れられない悲しみ。

「どうして…!!」
風が悔しさを露呈する。それにフェリオが驚いた。

「お前が悔やむなよ」
「悔やみますわ!!私たちはもう二度と!!…もう二度とあんな悲劇は…!!」
「フウ…」
「フェリオはお姉様を私達の手で失ったのに…!!どうしてフェリオが…!!」
「…運命、かもな」
「じゃぁそんな運命、打ち砕いてください!!」
「フウ…!?」
「あなた方がこれから私たちと同じ悲しい伝説に臨むなんて…!!許せませんわ!!」
「じゃぁどうしろって言うんだ!!」
夢の中に響く言葉。風は言葉が出なかった。
フェリオが見た夢の中で、彼女は涙を流した。

「分かり…ません…」
その表情がフェリオをハッとさせたが、手は届かない。
触れても透け抜けてしまう。それが二人を切なさと悲しみに包んだ。

「…ランティスが言うには、別の道があるかもしれないらしい」
「別の道…?まさか…」
「リュビを殺さない道を探している。俺の為、アスコットの為、そして自分自身のために」
「…信じますわ」
「俺もだ」
透き通ってしまうキス。
それが風の涙、フェリオの切なさを強くする。



「ランティス!?」
「ヒカル…!?」

「そうか…本当に魔法騎士になったんだね…」
二人は隣り合って座っている。
夢だと割り切ってしまうのが普通だが、どうもそんな気になれなかった。
触れる事の出来ない存在に現実感を突きつけられる。

「セフィーロと同じように、エメロード姫と同じ存在がいるってことだよね」
「リュビ、と言うらしい」
「リュビ…。その人もやっぱり…」
「あぁ」
「お相手は…誰なんだ?」
「メルビルという男だ」
「…似すぎだよ…」
「誰にだ?」
「ザガートに…」
「顔は僅かしか見ることができなかったが、違った」
「そうじゃなくて、ザガートとメルビルが重なるんだ」
「…そうだな」
「方法は…あるのか?」
「分からん」
「そうか…」
「だが、この旅は始まったばかりだ。まだ幾らかは可能性がある筈だ」
「そうだ…そうだよね。まだ幾らでも行くべき道はあるんだよね」
「ヒカル」
「何?」
「いや…なんでもない」
「? あ、そうだ」
「どうした」
「私たちの旅の事、教えるよ」
「え?」
ランティスが驚きを露にした。

「どうしたの?」
「…いや、ただ…」
「ただ?」
「…訊こうかどうか迷っていた」
先ほど詰まった理由。
彼女達がした壮絶な旅の情報。
だが、自分達だけがそれをしないというのは、ランティスには葛藤の渦の真ん中で鎖に繋がれていた感覚だった。
しかし、光は語る。
悲しい伝説だったからこそ、もうそれが繰り返されるのは嫌だ。
恋した人が同じ道を辿る事を一番耐え切れなかったのは、彼女自身。

光とランティスは強く見つめあった。
最初は、勝負だった。言うか聞かないかの。
だが、それは一瞬にして消えた。
ランティスは自分より背の低い少女の肩に触れる事ができない。
それがもどかしく思う。
光もまた、もたれたいのにもたれることが出来ない。彼を実感できない。
これは夢だと言ってしまえば分かりきっている。
だが、夢だからこそ、という事を考えてしまう。


突然、三人の少女の夢から三人の男が消えた。
フェードアウトではなく、パッと。
夢だと分かっても突然すぎる。



フェリオは剣を握り、アスコットも身を起こし戦闘態勢。

「…起こすな」
その間にランティスが一体倒した。文句は魔物に対してだった。
夜間に魔物が出たのを感じ、三人は一気に起きたのだ。
魔物の多い森。完全に熟睡すると永遠に目が覚める事がなくなってしまう事もある。

「フェリオ!!」
「来るな!!今のお前じゃ無理だ!!」
「くっ…!!でもやれる!!」
その自信は、魔獣が目を覚ましたからこそ。
アスコットの悔しさを一番知っている存在だからこそ。

「あぁそうかい!!」
フェリオは魔物を逆袈裟で倒しながらそう言った。

「行っけー!!」
アスコットの命令で額の宝石郡からメーサーのようなものを放った。
魔物は焼け爛れていった。

最後の一体は、二人と1頭によって倒された。


三人はまた少しの夢を見る。異世界の少女と共に。

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