もう見えてはいない。
もう聞こえてはいない。
だが、動くには充分だった。
「…そんな事って…アリかよ…」
フェリオは手で顔を覆った後、なんとか立ち上がろうとした。
「幻聴かも知れないが…やらないといけないのか…!?」
「えぇ!!やっちゃってください!!」
風は涙が流れたままだが、笑顔になっていた。
「あれが…偽者…?」
「そうよ!!本物はここにいるわ!!」
聞こえてはいない。
「あなたの愛した海はあいつじゃないの!!ここにいる龍咲
海よ!!」
が
「ふ…ざ…けるな…」
フェリオは剣をなんとか構えたが、そんな言葉が出るとは思わなかった。
「フェリオ…?」
「偽者でも…倒せばそれは…復讐になっちまうだろうが…」
「…!?」
(力が…入らない…)
今更遅い。
血を流しすぎたのだから。
「アスコット…」
「悲しい伝説だったが…俺は…あいつらを…恨んじゃいねぇ…」
「フェリオ…!?」
(ここであいつを倒せば…それは本物を倒す事にもなる…)
「そんなことはありませんわ!!あれは私の形をしているだけであって私ではないのです!!」
(復讐なんて…したくないんだよ…俺は)
「フェリオ…!!」
(もし…倒したとして…ウミにバレたら…どうなるんだろう…)
「バレバレよ、もう」
クスッと笑ってしまった。
「だから思いっきりやっちゃいなさい!!」
自分の幻が傷つけた事が何よりも許せなかった。
幻が突きを繰り出す。
海の突きの強さはチゼータ戦で実証済みだし、さっきまで喰らい続けていた。
海自身驚くほどの再現正確性。
「ぐぉ!!」
剣で堪える。体が悲鳴を上げる。
「フェリオ!!」
「やらないと…いけないのか…!?」
例え偽者でも、彼は目の前の風を倒せないでいる。
(フウを…斬るところなんか…想像も…したくないぜ…)
「…(汗)」
リアルすぎる一言。
風は思わず動けなくなった。
(そ、それも確かに嫌ですわね…)
んなこと言ってる場合じゃないんだけど。
まさか魔法が使えるわけではないので。
「でも結局…斬るしかありませんわ…」
この戦い、風にとって二重の辛さが…。
(偽者と分かってても…やって良いことといけないことがあるだろうが…!!)
やっちゃった人はどうすれば良いんだよ。
「でもやっちゃってください!!思い切りズバッと!!」
もう開き直るしかない風。
「フェリオがそこで倒れるほうが、私には辛いですわ!!」
そんな声が、フェリオは聞こえた気がした。
「!!」
アスコットはすんでのところで体をずらした。
そして、エスクードの剣の龍の翼、刀で言えば鍔に当たる部分を握り締めた。
「ぐぅぉぉ!!」
力が入らない体。声を振り出しなんとか保つ。
(本当に…やらないといけないのか…!?)
「行っけー!!アスコット!!」
海の声が、聞こえた気がした。
「衝電…破激…!!」
残された力と心を振り絞った魔法。
偽者の海は感電を起こした。
もちろん、本物の海には影響はない。
アスコットが心身共に限界を超えた。だが、ブローとでも言うべき超え方。
倒れたとき、偽者の海は形を変えた。
「…恨まれてやるよ」
「え…?」
フェリオの構えが変わった。
剣の達人ではない風の剣を捌いた後、
「うおおおおお!!」
心臓目掛けて突きを繰り出した。
「これで…良いんだな…?」
そう言った直後、フェリオは気を失って倒れた。
そして偽者の風もまた、姿を変えた。
そして何故か、本物の海と風はそれに触る事ができた。
「フェリオ…」
「アスコット…」
二人はそれぞれ、手にとったエスクードをそれぞれの手に握らせた。
触れた瞬間がそれだけだったことには後で気付いた。
フェリオとアスコットが同時に泉から出たとき、海と風の意識も戻った。
いつのまにか流れていた涙に気付いたが、すぐに拭いた。
「フェリオ…それは!?」
「お前こそ……ってことはまさか…」
『これがエスクード…!?』
手に握られた鉱物。
だが、他に何か感触があった。
まるで誰かに握られたかのような。
((まさか、そんなはずは…))
と自分の手を見たが、それで少し満足する事にした。
「待ちくたびれたぜ」
『何!?』
振り返れば、アスコットには見知らぬ男がいた。
フェリオは一度だけ見た事がある。
更に
『リーム!!』
「おぉっと、動くなよ。どうなっても知らねぇぜ?」
彼女は氷漬けにされていた。
この男に命を握られているのは確かだろう。
「リームを放せ!!」
「じゃぁ死ねや!!」
男の杖から無数の氷が飛び出してきた。
「ちっ…!!」
フェリオが飛び出していき、氷を粉砕する。
「衝電破激!!」
アスコットが更に広範囲の氷を電気の熱で溶かしていく。
「おぅぉぅ元気が良いなぁ、だが、何か忘れてねぇか!?」