ラファーガはカルディナよりも早く食べ終わる。
軍人気質とも言える人間だが、威張ろうとはしない。

彼はプレセアの部屋に向かった。


「入るぞ」

部屋に入ったラファーガが見たのは、机に俯いているプレセアだった。
彼女は声の主には気づいていたが、顔を上げようとしない。


「辛いな…」
短くラファーガは言った。
異世界の創師、そしてクレフと海の事。
泣きっ面に蜂とはこのことである。

「嫌に…なるの…」
「…そういう日も、たまにはあるだろう」



暫くして、クレフが部屋に来た。
ラファーガは廊下にカルディナを見つけ、彼女の許に行った。
クレフは部屋の鍵をかけ、更には結界までも張った。
鍵だけでは光達の手で開いてしまうからだ。
そして、盗み聞きをしようとするカルディナへの対策でもある。

「ヒドイんちゃうか」
「…」
ラファーガは顔に汗一つ。
どこまで本気かは大体分かるが。


「そう、気に病むな」
クレフがかけられる言葉は、それしかなかった。
異世界の創師の事で頭がいっぱいだからだと思ったからだ。

「…導師」
「ん?」
「…ウミの事を…どう御思いですか?」
「は?何をいきなり…」
「いいから!!」
その言葉に思わずビクゥッときた。
彼女が自分にここまできつく言う事は、今まで一度もなかった。

「ど、どう思う、と言われてもな…そりゃ再び会えた事は嬉しく思う。何せ会えるとは思ってもいなかったからな。プレセアもそうであろう?」
「……」
愛する者はプレセアの友人だから、ということだろうか。
それとも、海はクレフにとって友人のような感覚なのか。
ハッキリしない彼の答えに、頭がおかしくなりそうだった。

「彼女達にまた出会えたのは、紛れもなく幸運な事だ。だが肝心の3人がいないのが惜しまれるな」
途中まで笑顔だったが、そこからは少し切なげな表情となった。
声のトーンが変わったことで、プレセアは顔をようやく上げた。顔を見るために。

「もし王子たちが戻ってきたと同時にヒカル達が向こうに戻り、また会えないのであれば、強硬手段を取ろうと思う」
「強硬……まさか!!」
ガタッと立ち上がった。

「私があの三人を招喚する」
「そんな…!!」
「死ぬためではない、あの6人の幸せのためだ。何でもしてみせるさ」

6人…それは魔法騎士のことだろう。
"あの"という言葉が入る、ということは、クレフは含まれていないのか?

「まぁアスコットは上手く添い遂げる事ができるかどうかは分からないが、後の4人は大丈夫だろう」
「4人…王子とフウ、ヒカルとランティス…ではウミは…?」
「アスコットの想いが通じる事を、祈るしかあるまい」
フ…と笑顔を出したクレフ。
ようやく、シエラは課題の半分が解決したことに心底安心した。
クレフは海のことを友人とは思っていても、それ以上の存在とは想っていない。
そう結論つけてしまえば、ググンと心が楽になった。

だが今思い出してみよう。
異世界の人を招喚すると言う事はどういうことなのか。

シエラはクレフをギュッ…と抱きしめてしまった。
クレフはそれに驚いたが、彼女の話を聞こうとした。

「シエラ…?」
「私は…あなたまで失うなんて、耐えられません!!」
かつて姉を失い、アルシオーネを失った。
クレフは何度も命の危険に晒されている。それを見ていられない。

「…なら、こうしようか」
「…え?」
「一度ヒカル達に今の提案をしようと思う。3人が同意すれば、問題はないはずだ」
「クレフ…?」
「彼女達がこの世界に一生居続けてくれるのであれば、私はまだ生き続けるだろう」
クレフはポンポン、とシエラの背中を叩いた。

「お前には心配させてばかりだな。すまない」
「クレフ…」





プレーリーの家。
彼女は立ち上がった。

「プレーリー…?」
「貴方達が覚悟してて…私が覚悟を決めないなんておかしいじゃない」
少し笑顔になった。

「貸しなさい。あなたたちのエスクードを」
「良いのか…?今ならまだ」
「言った筈よ。覚悟は決めた、って」

三人はエスクードを魔法道具から出した。
もちろんクレフ特製だ。

だが一つ…。
プレセアは作品を創る際、白いドレスに着替えた。
当然プレーリーも…

男達は急いで外に出た。
それを見たプレーリーはクスッと笑い、そして着替えた。


やがて

「お待たせ」
着替えた彼女がドアを開けた。
プレセア同様、白いドレスに身を包んだ彼女にフェリオは一瞬見とれた。
ランティスはまぁ表情には出さないし何考えてるかは分からんけど。

「あら?アスコットは?」
「あいつなら外にいるぜ。でもピリピリしてるけどな」
「え?私…何かした?」
「お前を守るためだ」
ランティスが言った。

「私を…」
「もちろん、俺たちもだけどな」
フェリオ、愛剣を背負う。

「アスコットが最初の砦。俺がその次。ランティスはその間結界を張ってもらう」
「な、何そんな大げさな事してるのよ」
「こうでもしないと気がすまないんだとよ」
「???」
いきなりの危険度ランクアップ的な警戒。
アスコットは告げなかったが、起きないとは限らない悲劇。


アスコットは魔獣と打ち合わせをしている。
彼の真剣な表情は、海を守るそれと同じような顔だった。
自分の経験から考え、ここまで指揮を執るのは初めてのことだった。
だが責任を感じずにいられない。

「本当に来るかどうかは分からないけど、皆、頼むよ」
アスコットの呼びかけに魔獣は全員"任せろ"といった感じのリアクションをした。

(来ないなら来ないほうが良いんだけど)


部屋の中でプレーリーは踊り始めた。
ランティスはすぐに結界を張れるようにする。
フェリオも部屋の中に居るが、ドアを背にしてすぐに出れるようにしている。

セフィーロのプレセアは沈黙の森の自宅で殺された。
殺したのは魔獣だが、そうさせたのはアスコット。
アスコットも魔獣を殺され、魔法騎士への復讐を決意した。
その戦いは伝説の戦いの中では長かった方であろう。

もしセカイアでセフィーロと同じことが起きたら?
プレーリーがエスクードを加工中に、メルビルが刺客を送り込むかもしれない。
彼女がそれで死に、殺した招喚士の友達を殺すかもしれない。
そうなれば長い戦いが始まる。

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